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「明日の農業女子を考える日農」プロジェクト

【対談】レイミー×科学ジャーナリスト松永和紀さん(前編)

日本農薬のプロジェクトキャラクター「レイミー」が、リスクコミュニケーションに詳しい科学ジャーナリストの松永和紀さんと対談しました。(2019年12月)
 
レイミー×松永和紀さんタイトル

【レイミー】
松永さんは科学ジャーナリストとして、食の安全や農業技術などのテーマを中心に活躍されていますよね。
今回は、食品リスクの考え方、中でも農薬や添加物についての考え方や、その理解がなぜ進まないのか、正しく理解するための情報の集め方などについて、お話させてください!
 
【松永さん】
はい。よろしくお願いします。


【レイミー】
では早速ですが、農薬や添加物は使わない方がよいと思っている人が多いですよね。
なぜなのでしょうか?

【松永さん】
まず背景として、食品の科学的なリスクが正しく理解されていないことがあると思います。
例えば天然のものは、長く食べられているという理由から安全だと思われがちですが、天然物の安全性は必ずしも科学的に十分調べられているわけではありません。
毒性が明らかなものもありますし、よく調べられていないものもあって、大きなリスクになる可能性もあります。
一方で農薬や添加物は、試験研究をもとにきちんと評価され、安全性が確認された上で使われています。
そして食品に適切に使われていれば、リスクはほぼ無視できるレベルになります。
ところが多くの人が、天然物は安全なもの、農薬や添加物は使うと食品が汚染されるものというイメージを持っています。

 
松永さん対談企画

【レイミー】
食品のリスクについて詳しくは知らないけれど、漠然としたイメージで農薬や添加物は食品を汚染する、と考える人も多いですよね。
 
【松永さん】
そうですね。人がイメージする食品のリスクについては、下の図が分かりやすいのでご紹介しますね。
これは、国立医薬品食品衛生研究所・安全情報部の畝山智香子先生が作成されたもので、左図が多くの方が持つ食品のイメージです。
食品は本来何の問題もないものなのに、農薬や添加物が使われることで汚染されると思っています。
一方で、右図は食品リスクの専門家が持つイメージです。もともと食品自体が多くのリスク要因を抱えていると考えているんですね。

 

【レイミー】
一般的なイメージと専門家が考えるイメージではかなり違いがありますね。
 
【松永さん】
そうですね。食品に含まれていることが分かっている栄養成分は、ビタミンやミネラル、たんぱく質、脂質など色々ありますが、昔は食品がもともと持っている成分というと、そのような栄養成分のことしか考えられていませんでした。
その結果、左図のようなイメージを持たれていたんですね。
ところが近年の研究により、食品にはこれまで考えられていたもの以外にも、様々なものが含まれていることが分かってきています。

 
【レイミー】
具体的にはどんなものがあるのですか?
 
【松永さん】
例えば、アスパラギンという一般的なアミノ酸と一部の糖類を多く含む食品を120℃以上の高温で加熱調理したとき、アクリルアミド(※)という有害物質が作られる可能性があることが分かっています。
アクリルアミドは、大量に摂取すると健康被害を引き起こすとされていますが、焼く、揚げるといったご家庭の調理でも作られてしまうことがあるんです。このことは、2002年に発表されるまで知られていませんでした。

 
【レイミー】
2002年だとわりと最近の話ですね。そんなに最近まで分かっていなかったんですね。
 
【松永さん】
そうですね。それとカビ毒などもあります。
カビ毒は、栽培中や収穫後の保管時に作物に付いたカビの一部の種類が作り出す毒素で、健康被害を引き起こす場合があることが分かってきています。カビに強い品種を選んだり、栽培中に農薬で防除したり、収穫後にすぐに水分を除去するなどの対応をしないと、食品にカビ毒が含まれ大きなリスクになります。
他にも作物がもともと持つ毒性物質や、特定できていない未知の物質などが含まれていることも、近年の研究で分かってきました。

 
【レイミー】
なるほど。専門家はそのようなことを知っているから図右のイメージになるのですね。
食品が色んなリスク要因を抱えていると聞くと不安になる人もいるかと思うのですが、リスクを抑えることはできるのでしょうか?
 
【松永さん】
食品には、たくさんのリスク要因があり、それをすべてゼロにすることはできません。
自然界中にあってどうしても避けられなかったり、リスクゼロにできてもその作業に莫大な費用がかかったり、一つのリスクをゼロにしようとしたら知らない間に別のリスクがとても大きくなっていたり、というような状況に、しばしば陥ってしまうのです。

そのため、大事なのは、多様なリスクの1つ1つを正しく認識して「許容できる程度に管理する」ことだと考えられるようになりました。
農作物も栽培や収穫保管、加工などの工程で、適切な方法を選ぶ必要があります。
農水省も、たくさんのマニュアルを作って提供しているんですよ。


【レイミー】
例えば農薬の場合は栽培中に使われるわけですが、試験研究をもとにきちんと評価され、安全性が確認された上で使われるのですから、科学的に考えればリスクと捉える必要はないですよね。

【松永さん】
農薬は、誤った使い⽅をすればリスクにつながりますが、適切に使われていれば、作物中の残留農薬のリスクは無視できるレベルになります。また、先ほどお話したような栽培時に付くカビを防除し、カビ毒のリスクを⼩さくすることもできます。


【レイミー】
農薬って嫌われがちですが、⾷の安全に貢献することもあるってことですね。
 
【松永さん】
農薬は、作物の安定⽣産というベネフィット、すなわち利点がありますよね。
農薬使用をリスクをとらえて、そこだけにこだわりすぎると、かび毒のような他のリスクが大きくなってしまったり、安定的な生産という大きなベネフィットを得られない、ということもあります。
リスクとベネフィットは正しく認識した上で「総合的に判断すること」がとても⼤事ですね。

 
 レイミーインタビュー
 
【レイミー】
なるほど。それは農薬に限らず食品全体に言えることだと思いますが、そのような考え方は広まっていないですよね?なぜなのでしょうか?
 
【松永さん】
理由はいくつか考えられますが、まずは情報提供が少ないことがありますね。
食品リスクについての研究はこの20~30年で急速に進み、その結果、分かってきたことがたくさんあります。ですが、それらの情報提供はとても少なくて、インターネットで検索してもなかなか見つけられないと思います。
科学者やメーカーなど関係者は、改善途上な部分も含めて説明する機会をもっと増やして欲しいですね。

 
【レイミー】
説明される機会が少ないことで、科学的な情報が農業者や消費者に届きにくい状態にあるわけですね。
 
【松永さん】
そう思います。

 
【レイミー】
他にはどんな理由があるでしょうか?
 
【松永さん】
他には、情報を受け取る側の心理もあります。
食品のリスクやベネフィットは、「これはダメ、あれは大丈夫」といった単純なものではなく、非常に複雑な科学の話です。
専門家ではない人にとってはかなり難しい内容なので、受け入れ難いと思う心理が働くのです。
一方で「これは危険だから使わない!」といった話はとても分かりやすいため、根拠が定かではなくても多くの人がすんなり受け止めてしまいます。
科学的に正しいかではなく、分かりやすく直感的に判断できる話に納得してしまうんですね。
そのような人の複雑な心理が、情報提供の少なさと相まって、農薬への誤解を広げてしまうのかなあと思います。

 
(後編へ続く!)

※アクリルアミド
アクリルアミドは、工業製品の原材料として昔から製造されてきました。大量に摂取すると健康被害を引き起こすとされています。これまでは工業用に用いられるものと考えられてきましたが、実は、食品にも含まれることを2002年にスウェーデンの研究者が発表しました。以来、欧米諸国が中心となり、食品中のアクリルアミドに関する調査研究や低減するための取組みが進められ、日本でも2003年頃から本格的に調査研究が始まっています。食品中で作られる原因は、原材料にもともと含まれる特定のアミノ酸と糖類が、高温での加熱調理によって化学反応を起こすためと考えられています。アミノ酸や糖類は食品に含まれる一般的な栄養成分で、アクリルアミドは特に、穀類、いも類、野菜類などを調理・加工した時にできることがわかっています。これらの食材は、アクリルアミドができやすい一方で、ほかの栄養素も多く持っていますので、排除はしない方がよいでしょう。国は、特定の食品を避けるのではなく、多種類の食品を食べバランスのよい食生活を送る中で、アクリルアミドの摂取量もほどほどに抑えリスクも管理するように勧めています。

農水省・食品中のアクリルアミドに関する情報
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/index.html

 

プロフィール:松永和紀(まつながわき)氏

松永さんプロフィール写真
科学ジャーナリスト。
1989年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。食品の安全性や生産技術、環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。『メディア・バイアス  あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。ほかに『効かない健康食品  危ない自然・天然』(同)、『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)など著書多数。
 
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