「明日の農業女子を考える日農」プロジェクト

【対談】レイミー×科学ジャーナリスト松永和紀さん(後編)

前編では、食品の科学的リスクについての考え方や、一般の方と専門家が持つイメージの違いなどについてお話しました。後編では、理解が進まないことの心理的な側面をさらに掘り下げ、また正しく理解するための情報の集め方について伺いました。
 
松永さん対談企画後編

【レイミー】
前編で、「リスクとベネフィットを正しく認識し総合的に判断する」ということをおしえて頂きましたが、そのような考え方が広まらない理由の1つとして、情報提供の少なさを挙げられていましたね。

【松永さん】
そうですね。関係者からの情報提供は十分とはいえません。


【レイミー】
自分で調べようとするとインターネット上には情報がたくさんありますが、農薬や添加物については正しい情報ばかりとは言えないですよね。

松永さん】
そうですね。正しい情報よりも悪いニュースがたくさん出てくると思います。
これは「アレが悪い!」という情報は分かりやすく広まりやすいからなんです。
インターネットは、よく⾒られている内容が検索上位に表⽰されるという構造になっているので、⼈が注意を向けたがるような「農薬は危険」「添加物は危険」といった情報ばかりが上位に出てくるんです。


【レイミー】
確かに「危険!」というニュースを見ると、話題にしたり、もっとよく知ろうとしたりしますね。
その結果、悪いニュースばかりがよく見られて、検索上位にでてくるということですね。
でも、中には安全性についての正しい情報もあるはずですが、それよりも「危険!」という情報に目を向けてしまうものでしょうか?
 
松永さん対談

【松永さん】
⼈は、悪いものを避けていれば⼤丈夫という思考になりがちで、「これは危ない」という情報は⾃ら探して覚えておこうとしますが「これは安全」という情報はわざわざ探そうとはしないし、⾒ても覚えておこうともしません。
世の中には情報があふれていて、たくさんの情報が頭の中に⼊ってくるという状況の中で、安全だというものをわざわざ覚えておく余地なんて、現代⼈の頭にはないのです。

【レイミー】
なるほど。インターネットで情報を探すときは注意しないといけない点ですね。
もう1つの理由に、情報を受け取る側の心理として、複雑な科学の話よりも直感的な判断に頼ろうとするとのことでしたが・・。

【松永さん】
そうですね。でも、人が複雑で難しいことを避けたがるのは当然のことなんです。
文化人類学や心理学等で深く研究されていますが、人類の歴史の中で、人はかなり長い間、直感的に判断することを続けてきました。
人が作物栽培を始めたのは、諸説ありますがせいぜい1万年ほど前。それよりもっと昔は、自然の脅威にさらされながら、小集団で狩猟をしたり採集などで食料を得ていました。
そのような時代においては、1つ1つの事柄を深く考えるよりも一瞬の素早い判断が求められ、人類は何百万年もそうやって生きてきたわけです。
現代においては、色んな情報を集めて複雑な情報も理解し総合的に判断しなければなりませんが、そのような考え方の歴史はほんの数十年しかありません。

 
狩猟生活と情報社会
 
【レイミー】
なるほど。そんな風に考えると、人が直感的な判断に頼りがちになるのも頷けますね。

【松永さん】
そうですね。ですが、現代のこの複雑な科学と制度の中で、直感的な判断というのは必ずしも正解ではない場合が相当数あります。
やはり自分で情報を集め、色んな角度から見て、総合的に判断するということをしなければなりませんね。


【レイミー】
情報を集めたいと思ったとき、具体的にはどうやって探せばよいでしょうか?

【松永さん】
まずは国や都道府県などの公的な情報を見ることをおすすめします。
例えば農薬について知りたい場合は、農林水産省の農薬コーナーや食品安全委員会のサイト、厚生労働省のサイトなどがありますね。「厚労省 残留農薬」で検索すると消費者がよく疑問に思うようなことがQ&Aになっていたりします。
また農薬工業会の「教えて!農薬Q&A」(
https://www.jcpa.or.jp/qa/)も詳しくてよいと思いますよ。
次に、市民団体が発信する情報や農薬に関するニュース、また農薬使用を肯定する意見、逆に否定する意見など色んな情報を集めてみましょう。
松永さん対談

【レイミー】
集めた情報が正しいかどうか、どうやって判断すればよいでしょうか?

【松永さん】
集めたそれぞれの情報を比較してみてください。そして違いがあったときは、何を根拠にしているのかを遡ってみることです。
1つずつ根拠を遡っていくのは大変な作業ですが、続けていると段々と方向性が見えてくるものですよ。


【レイミー】
先ほど、インターネットで情報を探すときの注意点をおしえて頂きましたが、他に情報を集め判断するときに気を付けることはありますか?

【松永さん】
まず注意してほしいのは、情報はいかなるものでも必ず発信者側の編集がかかっているということです。
発信者側の考え方や主張が強調されているということを意識してください。
そしてもう1つ、情報を受け取る側に先入観や思い込みがあったとき、自分の気持ちに合った情報はすんなり入ってくるけれど、合わない情報は無意識のうちに捨ててしまい集めようともしなくなるという現象があります。
心理学ではこの現象を「確証バイアス」といいます。自分では無意識のうちに確証バイアスが働いて、聞きたい情報だけを集めて満足し、それ以上調べることを止めてしまうという人も少なくありません。
都合の良い情報だけが聞きたくて、耳に痛い情報は入らないようにする、これはどんな人にも当てはまることです。


 
確証バイアス

【レイミー】
確かにそうですね。自分の欲しい答えが出てくれば、それで安心してしまうということはありそうだなあと思います。では、確証バイアスにとらわれず情報を判断するにはどうしたらよいですか?

【松永さん】
確証バイアスはどんな人でも持っている、と考えられています。ですが、人にはそういう傾向があるということを意識するだけでも全く違うはずです。
たとえ自分の気持ちには合わない、耳に痛いと思うことであっても聞いておかないと判断を間違ってしまう可能性がある、このことを意識しておくことが大事ですね。

 
松永さん対談

【レイミー】
なるほど。自分の考えと合わないことであっても、耳を傾ける姿勢が大事ということですね。
今回は、食品リスクの考え方や、情報の集め方、正しい情報が届き難いのはなぜか、その心理的な側面まで掘り下げてお話頂いてとても勉強になりました。
最後に、レイミーが応援する農業女子のみなさまにメッセージをお願いします。

【松永さん】
農薬研究は着実に進んでおり、色んなことが分かってきています。おそらくこれから分かることもあるでしょう。
新しい情報を得たときは、それを直感的に判断するのではなく、周辺の情報も集めてそれぞれを比較してみてください。
そして情報の1つ1つには編集がかかっていること、また自分にも確証バイアスがあることを意識した上で、情報の根拠を遡ってみてください。
ほかにも、人にはさまざまなバイアスがある、ということが心理学や行動経済学などの実験や調査でわかっています。
自身の限界も感じながら謙虚に学び続けることで、その人にしかできない大きな価値が生み出されて行くのではないでしょうか。
情報を集め、学び続ける作業は本当に厳しく難しいことだと思いますが、これからの農業者には求められることです。
農業のプロフェッショナルとして、是非自分の言葉で語れる農業者になってください。


【レイミー】
大変勉強になりました!松永さん、有難うございました!
 
松永さん対談


 

プロフィール:松永和紀(まつながわき)氏

松永さんプロフィール写真
科学ジャーナリスト。
1989年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。食品の安全性や生産技術、環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。『メディア・バイアス  あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。ほかに『効かない健康食品  危ない自然・天然』(同)、『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)など著書多数。
 
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