NICHINO 日本農薬株式会社

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確固たる創薬技術と組織体制をもとに世界の「食とくらし」に貢献していく 代表取締役社長 岩田浩幸

「食とくらしを守る」使命とともに、歩み続けてきた道

当社は1928年、国内初の農薬専業メーカーとして創業して以来、「食とくらしを守る」という社是のもと、農薬事業を中核に据えた事業を展開してきました。私自身、この指針に何度も背中を押されてきたと思っています。日本農薬の歩みは、農薬業界の黎明期において、製販体制や商流の構築、品質管理の体系化、科学的根拠に基づく情報発信など、業界全体の基盤づくりに深く関与してきた歴史でもあります。こうした先駆的な取り組みは、単なる事業の枠を超え、農薬の社会的な役割を認識していただくことにもつながってきました。

私は、農薬は安定・安全な食料生産に必要不可欠な技術だと考えています。会社全体でも、その根本的な意義を「人々の生存と健康、そして社会の持続的な活動を支えるもの」と捉え、これまで数々の技術革新を通じ、その価値を高めてきました。創業間もない頃より、農薬の性能や安全性を正しく評価することの重要性を訴え、評価・研究体制の整備を他に先駆けて進め、安全な製造設備の導入や、海外の先進的な知見・技術の積極的な導入にも取り組んできたのは、そうした使命感によるものです。

創業以来の「科学的知見への信頼」「社会的要請への応答」「安全・安心への徹底した拘り」は、今なお当社の事業活動の中核です。そして現在、私たちはこの精神を、独自性と安全性の高い自社原体の創出へと昇華、研究・開発型の経営方針として明確に打ち出しています。この理念を次の時代へ確実に受け継いでいくことが、私の責任であり、誇りでもあります。

不確実な市場で、確かな手応え

2025年3月期において、グローバル市場全体で農薬需要が約6%減少する中、当社は約3%の減収という結果になりました。厳しい結果でしたが、市場全体のボラティリティを考慮すれば、相対的には堅調なパフォーマンスを示せたと考えています。
加えて、収益面では増益を確保し、特に原価低減の取り組みが功を奏し、営業利益は85億円に達しました。コスト構造の見直しや、グローバルな販売体制の最適化など、一連の構造改革が着実に成果を生んでいます。

地域別に見ると、北米市場での飛躍が顕著で、米国では純売上高が1億ドルを突破し、長年掲げてきた目標を達成しました。これは、北米チームのたゆまぬ努力と、長年の地道な信頼構築の成果で、私にとっても感慨深い出来事の一つです。さらに、カナダやメキシコといった旧NAFTA地域でも展開を強化し、とりわけアボカド需要が旺盛なメキシコでは、現地法人の設立による直販体制が奏功しました。

一方、欧州市場では、食料システムにおけるサステナビリティ実現への方向性を示した「Farm to Fork戦略」の目標として、化学農薬の削減が設定されるなど、厳格な規制環境が続いています。その中でも、当社の環境調和型製品は市場で評価されており、他社の撤退で“残存者利益”を享受している状況です。これは、当社の技術的信頼性を裏づける成果であり、シェア拡大にもつながっています。

他方、インド市場ではモンスーンの影響などによって不安定さが顕在化し、Nichino India Pvt. Ltd.ののれんの減損処理を余儀なくされました。これを受け、同社の経営体制の刷新を断行。本社から役員を派遣し、現地体制の再建を進めるなど、柔軟で迅速な対応を講じています。こうした危機対応力もまた、当社の強みの一つです。

このように、足元の業績は総じて安定的に推移していますが、業界全体としては不確実性が高まっています。農薬市場は単年度では気象条件や地政学的リスクの影響を受けやすく、ウクライナ情勢や中東不安、原材料の供給制約といった複合的な外部要因が業績に影響を及ぼしうる状況です。
それでも、当社が安定した業績を維持できている背景には、これまでに積み上げてきた構造改革と、収益性重視の体制への転換があります。具体的には、製品ごとの利益率管理に基づくポートフォリオの見直しや、生産拠点の再配置によるコスト低減、市場ごとの収益性評価に基づいた戦略的集中や撤退といった、地道な選択の積み重ねこそが、当社の土台を作っています。そのことを胸に、今後も一つひとつの判断を丁寧に積み上げていきます。

創薬型農薬メーカーの未来戦略

当社は2030年を見据えた中期経営計画において、「売上高1,650億円超」「営業利益率10%以上」「ROE10%以上」の3点を「ありたい姿」として掲げています。また、グローバルでの存在感をさらに高めるため、作物保護分野で売上高トップ10を目指しています。
この数値目標を実現するうえでのキーワードが、「食とくらしのグローバルイノベーター」です。これは、事業の中核となる農薬の製造・販売だけでなく、派生領域の農業全体の効率化や安全性の向上、さらには人々の暮らしに密接に関わる医薬・バイオ領域にまで広がる、戦略的な価値提供ビジョンを意味します。

例えば当社では、農業分野で培った知見をより人々の暮らしに役立てたいという思いで、水虫薬や爪白癬(つめはくせん)治療薬といったライフサイエンス領域にも挑戦しており、こういった新規分野の取り組みは将来的に、収益の新たな柱となる可能性を持ち、2030年までに新領域で150億円以上の売上創出を目指しています。
また、研究開発への継続的な投資も戦略の中核です。単体売上の約10%(連結では約7%)を年間ベースで投入し、3年間で累計200億円の投資を計画しています。中でも2028年の上市を予定している次世代殺虫剤「シベンゾキサスルフィル(略称:CBX)」は、世界に先駆けて開発する大型製品となる見込みです。当社はこれまでにも「ブプロフェジン」や「フルベンジアミド」といったグローバル製品を創出し、殺虫剤分野における開発力と実績は確固たるものとなっています。10年先を見据えて価値を育てる姿勢を、私は今後も大切にしていきます。

研究開発を支えるのは「人」。当社では、若手研究者の新卒およびキャリア採用を継続的に行いながら、外国籍の研究者も積極的に登用し、グローバルな研究体制の構築に取り組んでいます。
農薬の開発は10年以上の年月と数十億円規模の研究投資を要する、リスクの高い事業です。これを持続可能な形で推進するには、「企業の信念」と「中長期にわたる継続的な資源投入」が不可欠です。

当社は「3年に1剤の新剤開発」を挑戦的な目標として掲げ、創薬型農薬メーカーとしての地位を守ってきました。もちろん、その過程では失敗もありま。しかし、その積み重ねから得られる知見や技術力、評価能力こそが、当社グループのコア・コンピタンスを形成しているのです。私も、当社のDNAである失敗を恐れない風土こそが次のブレークスルーを生むと信じています。
さらに、開発力の強化に加え、その基盤となる知的財産の戦略的なマネジメントにも注力。グローバルでの特許出願件数は着実に増加しており、知的財産は単なる“守り”ではなく、アライアンスや技術協業を生む“攻め”の資産として活用されています。

当社の研究開発部門は単なる技術集団ではなく、“農業の未来を誰よりも早く見付ける”想像力と、“確実に農家に届ける”現場志向が同居しています。現場担当者と研究者がともに圃場に立ち、課題の原点を体感しながら、新しい製品の開発に挑む。当社の文化として根づいたその姿勢こそが、価値創造の源泉です。技術と現場が一体となり課題に向き合うことは、当社だけでなく、これからの農業全体の未来を切り拓く力になると確信しています。

売上高(2023年度)

現地に根ざし、世界を動かす

当社はすでに海外売上比率が約70%となり、次の目標は80%への引き上げを目指しています。世界規模の食料問題が深刻化する中で、私たちが果たすべき役割はより大きくなっており、私は、農業の現場に真に役立つ技術と製品を届けることで、未来の食料安全保障に貢献したいと考えており、その鍵を握るのが、インドやブラジルをはじめとする新興国市場の開拓です。

世界最大の農薬市場であるブラジルでは、特にスペシャリティクロップの分野(果樹類、野菜類、コーヒーなど)では、日本市場と同等規模(約3,000億円)の需要が存在します。当社の高度な技術力が存分に活かせる領域です。
一方、インドではモンスーン依存型の農業が主流であり、天候リスクはあるものの、人口増加とともに農薬需要の拡大が見込まれます。近年では農業の機械化やスマート農業の導入も進み、当社製品の現地展開を加速させるうえで重要な市場となっています。
さらに当社は、将来的な成長ポテンシャルの高い中東・アフリカ地域にも注目しており、2050年には世界人口の増加の大半がこの地域に集中すると予測され、農業インフラの整備が急務とされています。当社はすでに現地での登録準備を進めており、規制緩和の動きを追い風に、段階的な進出を図る予定です。

グローバルな成長戦略を支えているのが、「自社開発品のグローバル同時開発」と「現地直販型の販売体制」です。当社グループは現在17拠点に展開し、単なるライセンスアウトに依存せず、現地に人財と拠点を置いて、自ら販路とブランドを構築しています。この自律的かつ持続可能な展開モデルは、当社の競争優位性の核となっています。

当社のグローバル戦略の特徴は、「現地に根ざした事業モデル」です。営業担当者が農家を直接訪問し、現場の課題を理解したうえで最適な製品を提案する。研究者も販売担当と密接に連携し、現地のニーズを製品開発に反映させる。このように、現場と一体となった製品開発を行うことで、地域ごとに価値あるソリューションを提供できるのです。私は、机上の戦略だけでなく、現場での気づきこそが、本当に必要とされる製品を生み出す源泉だと確信しています。

その仕組みを機能させているのが、「現地拠点主導の経営」です。たとえばメキシコでは、現地マネジャーが権限と責任を持ち、製品の普及と浸透に取り組んでいます。地域の文化・商慣習・顧客ニーズを熟知した人財が主導することで、「ローカライズされたグローバル化=グローカル経営」を実現しています。

また、開発スピードの観点からは、「世界同時開発体制」の強化が進んでいます。従来は日本での登録を経て海外展開する流れが一般的でしたが、現在は日本・欧州・北米・インド・ブラジルなど主要市場において、登録用データの取得や申請を同時並行で進めています。この体制によって、製品上市までのリードタイムを大幅に短縮し、機会損失の削減と収益の最速最大化を実現しつつあります。

私の考えでは、日本農薬にとって2030年は、あくまで“通過点”。その先にあるのは、「世界の農業課題への本質的な解決策を提供する企業」への進化です。2050年には世界人口が97億人を超えるとされ、食料不足が顕在化するリスクも高まっています。私たちは、農業総合技術企業として、技術・データ・サービスで、より広範に社会へ貢献していく覚悟です。ご期待ください。
 ※ スペシャリティクロップ(Specialty Crop):米国農務省(USDA)の定義では、果物、野菜、ナッツ類、花卉、ハーブなど、主に食用・観賞用として栽培される作物のこと。これに対してロークロップ(Row Crop)は、トウモロコシ、大豆、小麦、綿花など、列状に植えられ機械化された大規模栽培に適した基幹作物を指す。

非財務価値の強化で、農薬事業の持続性を支える

農業とは、自然と人間の間に立つ“人工的な営み”で、農薬はそれを支える技術です。食料増産と生態系との調和という、時に相反する課題の狭間で、当社はこの技術の可能性を追求してきました。
こうした事業の本質を踏まえ、当社では環境・社会・人財といったサステナビリティ要素を経営戦略に統合しています。中でも重点的に取り組んでいるのは、「環境負荷の少ない『環境調和型製品』の開発」「生物多様性の保全に資する天然物農薬の推進」「働き方改革・エンゲージメント向上・ダイバーシティの促進」「健康経営および安全文化の徹底と再構築」の4つです。

当社は農薬事業を、単なる製品提供だけでなく、「食料安全保障」という国家的課題に資するインフラと認識しています。事業特性として環境や生態系保全との関わりをさらに追求し、日本においては、農業人口の減少や高齢化、農地集約の必要性が進む中、効率的で持続可能な農業の実現に向け、スマート農業や生物農薬の導入支援に注力しています。

特に重要視しているのが、スマート農業領域での技術展開です。私たちは、担い手不足や気候変動といった日本農業の構造的課題を、テクノロジーの力で乗り越える一助となりたいと考えています。そのため、ドローン散布に対応した新剤設計や、圃場データと連動した最適な散布タイミングの提案システムなど、「農業支援企業」として農業の高度化に貢献しています。

具体的には、低飛散リスクを考慮したドローン対応型剤の開発や、他システムとの連携により、散布履歴や圃場情報を一元管理できるデジタルサービスをすでに展開中です。また、行政、JA、大学研究機関などとの連携による『スマート農業共創プラットフォーム』を構築中で、農業経営をデジタル面から支援する体制を強化しています。

こうしたスマート農業やICT活用の推進は、環境調和と生産性向上の両立を目指す当社の研究開発姿勢を象徴するものです。施肥・農薬の適量化技術やデータ駆動型の農業支援により、サステナビリティを単なる制約ではなく、「差別化の源泉」として活かす経営を目指します。

加えて、非財務価値の創出を組織全体で実践するため、全ての従業員の目標設定にESG項目を導入し、これにより、サステナビリティを“経営課題”から“自分ごと”として捉える文化が根づき始めています。企業の価値は、財務成果だけでは測れません。働き方改革といった非財務的な課題への対応など持続可能性への誠実な取り組みが、エンゲージメント向上につながり、中長期的な競争力と社会的信頼を形成する重要な要素だと、私は考えています。

なお、2024年には、当社工場の操業中における事故が発生しましたが、経営トップとして、あらゆる事故を“自分ごと”として受け止めています。社員の安全と健康は、企業の土台であり、何よりも優先されるべきものです。全社を挙げて「安全文化の再構築」に取り組んでおり、今年発出した「安全経営宣言」は、その姿勢を象徴するものです。社員一人ひとりの心身の健康と職場の安全を、企業存続を支える基盤として位置付けています。

信頼と自律が、企業価値を支える

当社では、企業価値の持続的向上を支える基盤として、コーポレートガバナンスの強化に継続的に取り組んでいます。2025年度には、取締役会の構成において社外取締役が過半数(11名中6名)を占めており、弁護士、会計士、企業経営経験者など、多様なバックグラウンドを持つ人財が参画しています。また、6名中4名が女性という構成は、ダイバーシティ推進の観点からも重要な意味を持つと考えます。

社外取締役を中心としたガバナンス委員会の運営や、社外取締役のみでの意見交換会を開催し、経営の監督体制の実効性をさらに高めています。取締役会での議論の質を向上させるため、実効性評価の実施や役員業績評価制度の見直しにも取り組み、意思決定と成果創出のサイクルをより透明で機動的なものへ進化させています。

また、ESGと財務の双方の進捗を一体的に管理する仕組みとして、社外取締役によるモニタリングとサステナビリティ委員会でのレビュー体制も強化。これにより、取締役会レベルでの非財務情報の可視化が進み、持続可能性を重視した経営判断が可能です。

一方、資本効率の観点では、PBR(株価純資産倍率)の向上が重要な経営課題であるとして認識しています。企業価値の持続的な向上に向けて当社の強みを収益性に結びつけることがトップの責任として、ROE向上を通じた資本コスト経営の深化を図っています。自社製品比率の拡大、原価低減、収益性の高い市場の開拓などの取り組みを通じ、長期的な株主価値向上を目指します。

当社は上場子会社という立場にある中で、親会社との関係について透明性と独立性を重視しています。事業・人事・資本においては一定の距離を保ち、戦略的な技術連携などは経済合理性と整合性に基づき行っています。株主の皆様の利益を損なうような利害衝突が生じないよう、内部統制体制を整え、公正で自律的な経営を徹底しています。

当社はこれからも、持続可能性と資本効率の両立を軸に、透明性の高い経営を推進し、ステークホルダーとの信頼を深めていきます。

代表取締役社長 岩田浩幸

社会とともに、次の100年を創る

農薬業界への社会のまなざしには、期待と不安の両面があります。私たちはその現実を受け止め、科学的根拠に基づく安全性確保を前提とした合理化の追求、そして透明性のある情報発信に努め、研究開発型企業としての責任を果たします。

創業から97年、当社は多くの転換点を経験し、そのバトンを未来へつなぐ責任を日々実感しています。今、私たちは“次の100年”に向けた準備の時を迎えています。変化を恐れず挑戦し、自らの存在意義を社会へ問い直しながら、より良い未来の構築に貢献していきたいです。

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