NICHINO 日本農薬株式会社

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「食とくらしのグローバルイノベーター」として地歩を固める

世界的な食料問題解決に寄与

代表取締役社長 岩田 浩幸

最近の世界情勢を一言で言えば、引き続き大きな変革期にあって、今後ともこれまで以上に多様で急速な変化が起こるだろうと考えられます。

特にこの5年程度を振り返ると、2019年末に突然発生した新型コロナウイルスが世界各国で波状的な感染拡大を繰り返し、人や物の移動が制限され、世界経済を始め人々の日常生活に大きな影響を与えた一方、リモートワークなどDXが加速し、働き方自体にまで大きな影響を与えています。その影響が落ち着き始めた2022年2月に、今度はロシアによるウクライナ侵攻が開始されました。小麦やトウモロコシなどの重要な供給源であった両国の混乱は、農産物の輸出制限やエネルギー価格の高騰を引き起こし、いまだに収束の兆しは見えていません。この大きな2つの出来事は、世界的に政治経済面でのネガティブな影響をもたらし、今後の見通しを不透明なものにしています。

産業的な観点から見ると、2016年に内閣府の第5次科学技術基本計画で示された「あるべき未来社会であるSociety5.0」の実現が、その後の急速な技術革新とDXへの取り組みによっていよいよ現実的なものになってきました。「Society5.0」が目指す先端技術の体系的な活用が、世界の経済発展と多くの社会的課題の解決を着実に加速していくものと考えらえます。
社会的な観点からの変化では、企業側におけるCSRの重要性の高まりとCSR経営への取り組みの拡大があります。これは、ステークホルダー側から見た社会的責任としてのESG投資の考え方と同じ潮流にあるものと捉えています。この流れは2000年代に入って一段と顕在化し、さらに2015年に世界の共通言語と言われるSDGsが国連において全会一致で採択されたことが、CSRあるいはESG経営の推進が世界的潮流となることを決定づけたといえるでしょう。今後、企業に対する社会的要請はますます拡大していくものと考えられます。

このうち当社グループの事業に直結する課題として、ひとつは人口増加とそれに起因する食料問題が挙げられます。世界人口は80億人を突破しましたが、その約10%が飢餓に直面していると言われており、食料安全保障も含め食料確保の問題がクローズアップされています。もうひとつは気候変動がもたらす環境や農業生産への影響です。地球温暖化により、農作物が育ちにくくなったり病害虫や雑草の発生状況が変わるなど、安定的で持続的な食料生産をいかに実現するかが問われています。これらは早い時期から世界的な課題として指摘されてきましたが、2000年代に入ってその深刻度が増しています。

事業活動を通じてSDGsを達成

代表取締役社長 岩田 浩幸

日本農薬は1928年に日本初の農薬専業メーカーとして設立され、農作物を病害虫や雑草の被害から守るための農薬の研究開発と製造、販売、普及を中核事業として発展してきました。この間、農作物の収量確保と品質向上を通じて食料の安定供給に大きく貢献してきたと言えます。農薬事業は人類の生存や活動において必須となる農業生産に直結しており、さらには人々の食生活そのものにも深く関係しています。

2015年に国連サミットで採択されたSDGs「2030アジェンダ」と企業向けに策定された「SDGコンパス」の内容を、その策定プロセスに遡って読み解くと、「貧困」と「環境」という地球規模の課題を同時に解決するために、化学産業が積極的に参画し、その技術力を発揮・展開することが強く求められています。この点で日本農薬グループは農薬事業を通じ、SDGsが中核的に標榜する「飢餓を含む貧困の克服」に向けて、「生物多様性を含む環境保全」の「技術革新による解決」に正面から取り組んできました。このことは、日本農薬グループの基本理念がSDGsの17の目標とよく一致することからもわかります。

当社グループの使命とは、喫緊のグローバルな社会的課題とその解決に向けた要請の高まりに応えること、すなわち企業理念に掲げる「安全で安定的な食の確保」であると捉えています。当社グループの事業はその使命を十分に果たせるものとの強い自信と誇りを持って、新たな成長戦略に取り組んでいます。

中長期での成長を目指すにあたって重要な視点は、農薬と環境との関係性です。当社グループの農薬事業の中心となる、有機化学によって合成された殺虫剤、殺菌剤あるいは除草剤は、生態系を構成するさまざまな生物種の生理的機能に作用します。一方、その生態系を構成する生物は経済的価値に関わらず多様な種から成り立っており、農薬の探索・開発において、化合物が害虫と天敵、病原菌と有用菌、雑草と作物に対して選択的に効果を発揮することは容易なことではなく、研究上の宿命的な障壁と言えます。

さらに農薬は作物や耕作地に直接散布されるため、必然的に周辺環境に流入するほか、収穫物の物流や消費活動を通じて不特定多数の人々に接触し得ることになります。このプロセスは、医薬など他の化学製品とは異なる農薬の特殊な側面と言えます。農薬の効果を出していくために、常に環境とのバランスを考えていく必要があるのです。

特に近年では、ヨーロッパにおける「Farm to Fork(農場から⾷卓まで)」戦略や日本における「みどりの食料システム戦略」など、化学農薬使用量をリスク換算で減らしていくことが社会的に要請されています。こうした動きを踏まえて、当社グループではより環境保全に配慮した「環境調和型」の製品開発に向け、取り組みを強化しています。

企業価値向上に向けてCSR経営を推進

企業価値向上は、事業活動を通じて全てのステークホルダーに貢献すること、さらに持続的な社会の構築に貢献することによって実現すると考えています。当社は創立以来、さまざまな局面において社会や環境との関係性を意識して事業を展開してきました。特に製品の安全性評価に関わる科学的な思考は、研究開発型企業の基盤として現在も脈々と受け継がれています。研究開発の継続的な拡充は企業価値向上の大きな推進力になるものと考えています。
一方、全ての事業活動を担うのは個々の従業員ということになります。一人ひとりが働きやすく、やりがいのある職場環境の整備や人間関係の構築、人財育成が企業価値向上を支える根源と言えます。そのためCSR活動の優先課題として人権経営の拡充を設定しており、足元からの着実な企業価値向上を目指しています。
2000年代に入ってからのCSRの概念化と企業側への社会的な要請、投資側におけるESG投資の概念化と実行、あるいは2015年のSDGsの国連採択やコーポレートガバナンス・コードの制定などを受けて、当社でもCSR推進体制の構築と機能の整備に取り組んできました。
2020年10月にCSR推進体制の骨格を構築し、その後CSR基本方針、7つの優先課題、2030年のありたい姿と、それに向けた2023年までの現中計期間のKGI・KPIと活動計画を策定しました。グループCSR基本方針を、これまでの基本理念、行動憲章、グループビジョンのバックボーンとすることで、CSRへの取り組みを経営の基盤と位置づけ、企業の本来の目的である「経済的価値」と、可視化が難しいとされる「社会的価値」を両輪としてCSR経営を推進し、持続的な社会へ貢献していくことを明確に発信しました。

「7つの優先課題」の選定と進捗

「7つの優先課題」の選定にあたっては、まず、当時のRCレポートの編集に携わっていた共通部門、監理室、環境安全部のメンバーからなるワーキンググループにおいて、それぞれの主管分野での関連活動や施策、課題を網羅的に抽出しました。そのうえでCSR活動のグローバルなガイドラインであるISO26000の「7つの中核主題」が掲げる38の課題に対する対照表として整理するとともに、経営的側面からの重要性と、抽出された課題に対する当時の取り組み状況に応じて優先度を判断しました。さらに経営面からの重要性とステークホルダーにとっての重要度によって再度分析を行い、最終的にISO26000との対照表と当社実態との関係から「7つの優先課題」として再編成しました。その結果、ISO26000における「7つの中核主題」の網羅性を基盤として、当社の「7つの優先課題」ではコンプライアンスやリスクマネジメント、BCPなどをESG共通として括り出すとともに、残りの6つの項目においてCSR活動の当社独自の方向性を示すことにしました。

この1年間における7つの優先課題の進捗は次のとおりです。

E:環境経営の高度化(環境保全、RC活動)
当社事業は特に環境との関係が深いことから、歴史的にも早くから取り組んでいる課題の1つです。2021年時点では連結経営におけるインドやブラジルなど海外拠点との連携を意識し、「環境負荷低減に向けた数値目標の設定と管理」を策定しました。国内では生産本部とグループ会社であるニチノーサービスの共同ワークが強い推進力となりました。
またADEKAグループの一員としての対応も協調的に推進され、昨年2月のTCFD賛同の表明に合わせて当社グループのGHG削減方針を開示しました。グループ方針の提示は環境施策で大きな進捗と言えます。
なお、カーボンニュートラルの達成時期は各国の政府目標に合わせて、日本とブラジルでは2050年、インドでは2070年を目標としています。

S:人権経営の拡充(D&I・人財開発)
今期は人権デュー・ディリジェンス対応の方針を定めました。今後はその中で最も重要な人権ポリシーの具体化を急ぎます。
またサプライチェーンにおける人権保護に関する「調達基本方針」に基づいて、国内サプライヤーに対する「調達アンケート」を実施しました。その結果、各社の取り組み状況について一定レベルで解析することができたほか、当社のCSR経営への取り組み姿勢を明示することができました。なおアンケート手法に改善の余地があることがわかり、課題の抽出と次段階へのヒントが得られたことも成果のひとつだったと考えています。
女性活躍促進に関連する管理職比率などの数値目標では十分な達成には至りませんでしたが、経年では改善しています。グローバルでの人財育成・人財交流の取り組みも進んでいます。
また健康経営の強化では、健康優良法人としての認証を取得して、日本政策投資銀行による健康経営格付融資の決定に至りました。

S:安全文化の深化(労働安全衛生、製品安全)
化学業界に身を置く当社グループにおいて、事業活動における安全の確保は全てに優先する課題です。ここでは環境安全以外の4つの安全(労働安全、製品安全、物流安全、設備安全)について、基本的な施策を安定的に継続実施しました。活動の継続的な実施が最も重要と考えます。
製品安全に関しては、関連する製品・品質管理システムが整備されるなど一定の進捗がありました。一方、海外の製造拠点における重篤な事故発生を受けて、従来の環境安全部を環境安全・品質保証部へ組織改編し、安全に対する監視・牽制機能を強化することとしました。

S:社会のニーズに対応した技術と製品開発(顧客満足の追求)
ここには、社会的な要請やニーズに対応できる技術や製品の開発、そのための顧客ニーズの発掘、新規事業分野への取り組みなどが含まれています。
世界的に化学農薬の削減方針が打ち出されているなか、昨年、当社は「環境調和型製品」の開発に取り組むことを公表しました。これは生物農薬やバイオスティミュラントなどの新しい作物保護資材分野のほか化学合成農薬にも適用するもので、農薬専業メーカーである当社にとってはハードルが高い目標設定と言えます。昨年はその定義や選定基準についての検討を進めました。
省力的な技術や環境負荷低減型の技術展開では、ほぼ数値目標に沿った成果が得られています。またスマート農業の拡大を支援するAI病害虫・雑草診断アプリは、さらなる機能拡充を進める一方で、アジア地区の海外拠点や衛生害虫分野において、順次グループ会社への展開を実施しました。

S:コミュニティへの参画(ステークホルダーとの対話)
いわゆる社会との対話に関する課題です。現在、当社グループのCSR活動の本格展開に合わせて、適正な情報発信に対応しています。昨年は、企業側から最も有効な情報発信ツールとなるCSRレポートやホームページのCSRサイトに関して、GRI(Global Reporting Initiative)スタンダードに準拠した改訂に取り組みました。
またグローバルでのブランディング強化を目指し、社内の海外事業展開に関連する推進プロジェクトによるグループロゴの統一などを進めました。
総合研究所、長沼ナーセリーやニチノーサービスの各事業所では、コロナ禍で中断していた見学者の受け入れが徐々に回復しています。

G:企業・組織統治の強化(コーポレートガバナンス、CSRマネジメント)
ガバナンス体制の強化に向けて、監査の効率化や取締役会の実効性に関する外部アンケートを実施するなど、多角的な検討を行いました。海外グループ会社におけるガバナンス体制の整備・強化は、連結経営の推進やグローバル化への対応として継続して検討していきます。

全般:コンプライアンス、リスクマネジメントの拡充(サステナビリティー・マネジメント、BCP)
ここでは、CSR経営の推進において基盤的で背景となる課題をESG共通項目として括り出しています。これにより必然的に主要な関連部門が横断的に参画することになり、幅広い視点でより多角的かつ効果的に取り組むことができるようになりました。

コンプライアンスやリスクマネジメントにおいては、連結経営の強化を意識してグループ会社間の課題や対応の可視化に取り組みました。今後、この組織横断的な機能強化がますます重要になるものと考えています。
近年、CSRやESG経営に関する情報公開がより強く求められるようになりました。そこで当社グループのCSR経営の推進方針に基づき、国連グローバル・コンパクトへの署名やTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)への賛同表明などを通じて各種の外部イニシアチブへの対応を進めました。CSR推進に関連する活動を全てのステークホルダーの皆様へ適切に発信することは、経営の透明性の向上にも繋がるものと考えています。

グローバルでの成長を目指して

中期経営計画の最終年度となる2023年度(第125期)は、当社にとって非常に重要な年となります。前年対比で増収となる連結売上高1,045億円と連結営業利益83億円の計画を達成することで持続的な成長を目指します。規模は小さくても、継続的に新剤を生み出している日系の農薬メーカーはその研究開発力が世界でも評価されており、当社グループの強みを存分に活かし、グローバル企業として存在感をさらに高めていけると考えております。

当社の基盤である国内営業は自社品とコルテバ品のコラボと普及拡販、成長ドライバーである海外営業はさらなる販売強化とエリア拡大など、国内外で積極的に事業展開を進めていきます。さらにグループ会社との連携を強化し、原体生産の内製化や有利購買による原価低減に取り組むことで、世界的なインフレや為替変動の影響を受けにくい強靭な経営基盤と安定した収益構造を確保していきたいと考えております。

また新規分野として、半発酵生産技術の確立や医薬・動物薬、生物農薬・作物保護資材などのビジネス化を早期に進めていきます。外販事業では現在の枠組みにとらわれない新たな発想で、また国内グループ会社は自社の強みを活かしてさらなる成長に繋げ、既存事業のみでなく領域拡大を含めてグループ全体をけん引することに期待しています。

スマート農業、スマート工場、研究開発促進、適正な在庫管理、グループ会社の経営可視化などの基盤強化もDXのさらなる展開と共に実現していきます。

CSR・ESG経営の推進にも力を入れ、“NICHINO”ブランディング強化、非財務情報の目標設定と開示を進めます。グループが一丸となってこれらの課題に挑戦し、持続的な企業価値向上を実現して、さらなる高みを目指す次期中期経営計画につながる成果を上げたいと考えています。
当社は創業以来、農薬製品を通じて病害虫雑草防除による食料安定生産に貢献してまいりました。この事業活動そのものがCSRに値するものであり、当社の存在意義であると誇りを持っています。今後とも当社事業が続く限り変わるものではありません。

今後とも「Global Innovator for Crop & Life」(食とくらしのグローバルイノベーター)をコーポレートステートメントに掲げ、農薬をはじめ医薬・動物薬など幅広い分野で社会ニーズに応える先進技術を提供します。安定的な食を確保し、豊かな生活を守るべく挑戦するとともに、CSR活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

代表取締役社長

代表取締役社長 岩田 浩幸

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