農薬にできること、私にできること

08分析化学の手法を活かし
化合物の安全性を見極める

農学研究科資源生物科学専攻 研究本部/安全性研究

K.SK.S

K.S
研究本部 総合研究所 代謝・環境グループ 2018年入社

大学院では植物がつくる多種多様な抗菌物質を研究し、核磁気共鳴分光法(NMR)などの機器分析を用いて構造解析を行っていた。研究を通じて、有機化合物の構造や濃度を決定する分析化学の分野に面白さを感じ、その技術が活きる就職先はないか模索している過程で出会ったのが日本農薬。調べていく中で代謝・環境グループの業務内容を知り、自分の希望と合っていると感じて応募した。最終的に入社を決めた要因は、前述の動機が半分、もう半分は農薬の研究開発という仕事の壮大さに魅力を感じたから。

私のミッション 安全性を確認するための
分析法を構築

農薬は環境中で使用するため、人体だけではなく作物やその周辺にいる生物、土壌、水などに影響を及ぼす可能性があります。そのため、新規化合物を農薬として市場に出すためには、候補となる化合物について様々な観点から環境への影響を検証しなければなりません。私たち代謝・環境グループの取り組みの一つは、化合物が生体や環境の中でどこへ移動し、どのように代謝されるのかを追跡し、そこで生じる代謝物を含めて安全性を確認することです。
「代謝」とは、生体内や自然環境の中で化合物の化学構造が変化・分解すること。そして、農薬がその過程でどのような代謝物になり、どれくらいの量が生じるかという「代謝運命」の解明は、その農薬の安全性を見極めるうえで欠かせない工程です。ところが、未知の代謝物の化学構造を決めることは容易ではありません。従来よりも高い精度で代謝物の構造を「早く」「簡便」に決めるために、新規手法を構築することが私のミッションです。

安全性を確認するための分析法を構築安全性を確認するための分析法を構築

携わっている仕事 質量分析法を用いた研究に
チャレンジ

迅速かつ精度よく未知代謝物の構造を推定するためには、分析によって化合物の情報をより多く得ることが必要になります。この点において、質量分析法はわずかな量の試料から化合物の分子量、組成式、部分構造など様々な情報を得ることが可能なため、農薬の代謝運命を解明するための手段としては最適と言えます。学生時代の研究背景もあり、私は質量分析に注目して新規手法の構築に取り組み始めました。分析化学の試験では、実験条件、分析用試料の調製、機器のコンディション、データ解析などあらゆる要因がその結果を左右します。分析結果から正確な情報を得て考察を導くためには、技術を磨くことは勿論のこと、広い視野を持って試験全体を見渡す冷静さが必要です。また、思うようなデータが取得できない場合には、なぜ仮説と異なる結果となったのか、その原因がどこにあるのかを順序立てて考え、改善案を提示しなければなりません。毎日が地道な取り組みの連続ですが、どのような化合物であっても、その代謝運命を明らかにできる優れた分析法をつくることを目指しています。

質量分析法を用いた研究にチャレンジ質量分析法を用いた研究にチャレンジ

面白みとやりがい 代謝物の構造を
理論に基づいて決定

合成研究者が初めて創り出した化合物の代謝運命を解き明かすことが私の役割です。未だ誰も知らない事象をはじめて解明するという業務に、いつもワクワクしながら取り組んでいます。研究の中で何よりも面白さを感じるのは、試験の中で生じた代謝物の構造を理論に基づいて絞り込み、想定通りの構造だと決定できた瞬間です。入社3年目の頃、ある植物で特殊な代謝物が見つかった際に、推論を重ねて試行錯誤しながら構造を予測しました。そして、合成グループの協力によって予測通りの物質だと決定できたときには、大きな達成感がありました。一つひとつの代謝運命の解明は、すべて安全性を保つことにつながっています。人体だけではなく、さまざまな生物や環境と化学物質の相互作用を評価したり考察したりできるのは、農薬ならではの分野です。現在の農薬開発では、環境にやさしい化合物であることが必達項目であり、その安全性を評価する私たちの役割は、これまで以上に重要になってきました。そのために私は化学分析という武器を駆使しています。標的となる病害虫・雑草以外の環境に対しては、影響の少ない農薬を自分たちの力で見つけ出して、確実に世の中に出していくために、これからも挑戦を続けていきます。

代謝物の構造を理論に基づいて決定代謝物の構造を理論に基づいて決定

農薬にできること、私にできること

代謝運命の研究を通じて、環境にやさしい
安全な農薬の創出に貢献したい

農薬にできることは、病害虫や雑草から作物を守ることであり、その役割は変わりません。しかし、社会・環境はつねに変動し、農薬の規制も含めた農業のあり方はどんどん変わってきています。代謝運命の研究を通じて、より安心して使用できる農薬づくりに貢献するとともに、安全性研究に携わる者として農薬の安全性を正しく理解・評価し、発信することのできるように、自分の能力を高めていきたいです。

ある日のスケジュール
9:00 出社 メールチェック
9:30 前日の分析結果を確認
10:00 土壌サンプルの抽出・精製・分析
12:00 ランチは休憩室で妻の手作り弁当
13:00 午前の実験の続き、翌日の実験準備
16:00 デスクワーク(資料作成、文献調査など)
18:00 退社
私の仕事道具
住吉大社のお守り
住吉大社のお守り
数年前に会社のメンバーといった住吉大社で購入したお守りを大事にしています。仕事でもプライベートでも、みんなに運が回ってくるようにといまだに持っています。